或る列車の料理の正体|3万8,000円で味わう成澤シェフの九州フルコース

或る列車の料理の正体

「或る列車」という名前を耳にしたことはあるでしょうか。JR九州が運行するこの列車は、100年以上前に設計されながら一度も営業運転されなかった”幻の豪華客車”を現代に蘇らせたもの。博多と由布院をおよそ3時間で結ぶ車内では、世界のベストレストラン50に選ばれ続けるシェフのコース料理が待っています。

料金は1名3万8,000円から。決して安くはありませんが、フリードリンク付きのコース料理、九州の車窓、そして明治時代の浪漫を纏った車両空間――この3時間に詰め込まれた体験を知ると、「むしろ安いのでは」と感じる方もいるかもしれません。

この記事では、或る列車の料理の全貌を中心に、料金体系、座席選び、予約のコツ、そして車窓の見どころまで、乗車前に知っておきたいことをすべてまとめました。

💡 この記事でわかること

・或る列車のコース料理の全メニューと監修シェフの正体
・座席タイプ別の料金一覧(3万8,000円〜5万円)と選び方
・午前便と午後便、どちらを選ぶべきかの判断基準
・予約方法と、満席になる前に押さえるコツ

目次

或る列車の料理とは?|世界が認めたシェフが車内で腕をふるう

或る列車の料理の正体

監修は「NARISAWA」成澤由浩シェフ|世界のベスト50常連の実力

或る列車のコース料理を手がけるのは、東京・南青山のレストラン「NARISAWA」のオーナーシェフ・成澤由浩氏です。「ワールド50ベストレストラン」には2009年から継続してランクインしており、「イノベーティブ里山キュイジーヌ」と呼ばれる自然環境をテーマにした独自の料理哲学で、国内外の食通から高い評価を受けています。

その成澤シェフが、「或る列車」のためだけにオリジナルメニューを設計しています。レストランに行けば1人数万円のコースを提供するシェフの料理が、列車の旅とセットで味わえる。或る列車の料理が特別と言われる最大の理由はここにあります。

メニューは季節ごとに完全に入れ替わります。同じ料理が二度提供されることはほぼなく、春・夏・秋・冬それぞれの九州の旬が皿の上に凝縮されます。リピーターが多いのも、「次はどんなメニューだろう」という期待感があるからです。

2026年春のコース全5品|九州の食材が主役のフルコース

2026年3月7日からスタートした春のコースは、以下の5品構成です。

コース 料理名 主な食材の産地
冷たい前菜 桜鯛と春野菜のハーブゼリー、キャビアとサフランの香り 熊本県(桜鯛)、宮崎県(キャビア)、大分県(サフラン)
温かい前菜 蛤と合馬たけのこの五島うどん 福岡県(合馬たけのこ)、長崎県(五島うどん)
お肉料理 黒毛和牛のクリームトマト煮込み、春野菜とチーズのソース 鹿児島県(黒毛和牛)、宮崎県(チーズ)、熊本県(ミニトマト)
メインスイーツ あまおういちごの温かいクレープ、スミレの香りのヨーグルトダンジュとミルクアイス 福岡県(あまおう・池上農園)、大分県(ビオラ)
ミニスイーツ 抹茶ガトー、桜餅、柑橘香る生チョコレート 福岡県八女市(抹茶・星野製茶園)

注目すべきは、すべての食材に九州7県の産地が明記されていること。宮崎県のジャパンキャビア、大分県竹田市のサフラン、福岡県池上農園のあまおう――産地が見えることで、料理がただの「おいしい食事」ではなく「九州の風土を味わう体験」へと昇華しています。

フリードリンクで楽しむ九州の酒と飲み物

或る列車の旅行代金には、コース料理だけでなくフリードリンクが含まれています。ビール、ワイン、日本酒、焼酎、ソフトドリンクなどが用意されており、料理に合わせて自由に注文できます。

九州は焼酎の本場。鹿児島の芋焼酎、大分の麦焼酎、熊本の米焼酎と、産地ごとの個性が際立つ銘柄が揃います。コース料理の鹿児島県黒毛和牛に合わせて芋焼酎を一杯――こんな贅沢な組み合わせが追加料金なしで楽しめるのは、或る列車ならではの体験です。

もちろんアルコールが苦手な方も心配ありません。九州産の果汁を使ったジュースやお茶、コーヒーなども用意されており、料理とノンアルコールの組み合わせでも十分に食事を堪能できます。

季節ごとに変わる或る列車の料理|リピーターを惹きつける理由

或る列車のコース料理が年に4回完全に入れ替わるのは先述の通りですが、季節メニューの振り幅の大きさは特筆に値します。夏には大分県産の関アジや宮崎マンゴーが登場し、秋は九州各地の松茸や栗、冬は長崎県のクエや佐賀牛が主役になります。

成澤シェフは「九州の生産者を訪ね歩き、その季節にしか手に入らない食材だけでコースを組む」と語っています。つまり同じ春のコースであっても、年によって内容が異なる可能性があるということです。「去年の春に乗ったけど、今年はどんなメニューだろう」という好奇心が、リピーターを何度も車内に呼び戻しています。

実際に、或る列車には年間3〜4回乗車する常連客もいるといいます。1回の乗車で「次の季節も来たい」と思わせる料理の力は、成澤シェフの真骨頂と言えるでしょう。

💡 知って得する豆知識
或る列車では車内限定の商品も販売されています。オリジナルブレンドの紅茶、列車ロゴ入りのグラス、さらにはレトルトカレーまで。おみやげとして持ち帰れるのはもちろん、「この列車でしか買えない」という希少性がコレクター心をくすぐります。

或る列車の料理の料金はいくら?|座席タイプ別の料金一覧

テーブル席と個室|3万8,000円〜5万円の料金体系

或る列車の旅行代金は、座席のタイプと利用人数によって変わります。最も手頃なのは1号車のテーブル席を2名で利用するケースで、1名あたり3万8,000円。個室を1人で利用する場合が最も高く、4万4,000円となります。

座席タイプ 車両 1名利用 2名以上利用(1名あたり)
2名テーブル 1号車 50,000円 38,000円
4名テーブル 1号車 38,000円
1名個室 2号車 44,000円
2名個室 2号車 50,000円 38,000円

こども料金(10歳以上の小学生)は一律3万2,000円。大人と同じコース料理が提供されます。なお、10歳未満のお子さんは乗車できません。大人の食事をシェアすることも不可のため、小さなお子さん連れの場合は注意が必要です。

料金に含まれるもの・含まれないもの

3万8,000円の中には、博多〜由布院間の片道乗車、コース料理(全5品)、フリードリンクが含まれています。つまり乗車券+食事+飲み物がすべて込みの「旅行商品」という扱いです。

一方、含まれないのは博多駅までの往復交通費と、由布院(または博多)からの帰りの交通費です。由布院から博多へJR特急「ゆふいんの森」で戻る場合は片道約4,500円、高速バスなら約2,900円が別途かかります。新幹線を使って小倉経由で博多に戻るルートもありますが、乗り換えが必要になるためゆふいんの森の方が一般的です。

また、車内限定グッズの購入費用も別途です。旅行商品のため、JRのきっぷ窓口では買えず、専用の予約サイトからのみ購入できる点も覚えておきましょう。

1人でも乗れる?|ソロ旅での料金と座席選び

或る列車は1名から予約可能です。最少催行人員も1名なので、「1人で予約したのに催行中止になった」ということはありません。

1名で乗車する場合、最もお得なのは2号車の1名個室(4万4,000円)。1号車の2名テーブルを1名で使うと5万円になるため、個室の方が6,000円安く、しかもプライベート空間が確保できます。組子細工越しに差し込む柔らかな光の中、誰にも気を遣わずに料理と車窓に没頭する時間は、ソロ旅ならではの贅沢です。

意外と知られていないのが、1名個室は「1席しかない」ということ。つまり1日の運行で1人しかソロ旅枠がありません。1人旅を計画するなら、早めの予約が必須です。

⚠️ よくある失敗パターン

「2人で行くつもりが1人キャンセルになり、1名で2名テーブルを使うことに。料金が3万8,000円→5万円にアップしてしまった」というケース。人数変更は早めに連絡し、1名個室(4万4,000円)への振替を相談するのがベストです。

或る列車の料理を最高に楽しむ|午前便と午後便の選び方

或る列車の料理の正体

午前便(博多→由布院)|ランチコースと筑後平野の車窓

午前便は博多駅を10:58頃に出発し、由布院駅に14:08頃到着する約3時間10分の旅です。ちょうどランチタイムにコース料理が提供されるため、「列車でランチを食べに行く」感覚で楽しめます。

午前便の車窓の見どころは、筑後川沿いの田園風景と耳納連山(みのうれんざん)。久大本線は筑後平野を横断するように走り、広々とした田園の向こうに山並みが連なる、のどかな九州の原風景が広がります。春は菜の花、秋は稲穂の黄金色と、季節ごとに表情が変わる景色もこの路線の魅力です。

由布院に14時過ぎに到着するため、そのまま由布院温泉に宿泊するプランが組みやすいのもメリット。列車での食事と温泉旅館の夕食、1日で2つの「九州の食」を楽しめます。

午後便(由布院→博多)|ディナーコースと九酔渓の絶景

午後便は由布院駅を15:00頃に出発し、博多駅に18:03頃着。午前中に由布院を散策し、午後から列車に乗り込んでコース料理を楽しむ流れになります。

午後便ならではの見どころが、玖珠(くす)〜天ヶ瀬間の九酔渓(きゅうすいけい)。深い谷を見下ろしながら列車が進む区間で、紅葉シーズンには谷全体が赤や黄に染まる壮大な景色が車窓いっぱいに広がります。コース料理のスイーツを味わいながら渓谷を眺める――この組み合わせは午後便でしか体験できません。

博多に18時過ぎに到着するため、そのまま中洲の屋台へ繰り出す…という楽しみ方もできます。或る列車のコース料理は繊細なフレンチ寄りなので、夜は博多ラーメンや焼き鳥でカジュアルに締める、というギャップも旅の面白さです。

結局どちらを選ぶべきか|判断の分かれ目

🌅 午前便がおすすめの人

・由布院温泉に泊まる予定がある
・明るい時間にランチとして楽しみたい
・筑後平野の開放的な車窓が好み
・博多在住or前泊で朝の出発が楽

🌆 午後便がおすすめの人

・由布院観光を午前中に済ませたい
・夕暮れに近い時間帯の雰囲気が好き
・九酔渓の渓谷美を車窓で見たい
・博多の夜を楽しんで帰りたい

料理のメニューは午前便・午後便ともに同一です。違いは「車窓の景色」と「旅の前後の予定」。由布院に泊まるなら午前便、由布院を先に楽しんで帰りたいなら午後便、というシンプルな選び方で問題ありません。迷ったら午前便がおすすめ。到着後に由布院の金鱗湖や湯の坪街道を散策できるため、旅全体の満足度が高くなりやすいです。

100年の時を超えた”幻の車両”|或る列車の料理を彩る空間

或る列車の料理の正体

明治時代に設計され、一度も走らなかった豪華客車

或る列車の名前には、深い歴史が刻まれています。1906年(明治39年)、九州鉄道がアメリカのJ.G.ブリル社に5両の豪華客車を発注しました。当時としては破格の贅を尽くした車両でしたが、1907年の鉄道国有化により九州鉄道が国に買収され、この客車は行き場を失います。

完成した車両は1908年に日本に届いたものの、国有鉄道では使い道がなく、東京で放置されたまま解体。一度も営業運転されることなく姿を消した”幻の列車”として、鉄道ファンの間で語り継がれてきました。「或る列車」という名前は、1935〜36年の鉄道雑誌でこの車両が紹介された際に使われた呼称がそのまま定着したものです。

それから約80年。鉄道模型収集家の原信太郎氏がこの幻の客車を精密な模型として再現し、その模型をもとに水戸岡鋭治氏がデザインを手がけ、2015年に現代の「或る列車」として蘇りました。改造費用は2両で約6億円。ななつ星in九州とほぼ同額の投資が、この2両編成に注がれています。

1号車のヴェルサイユ宮殿、2号車の神社仏閣|対照的な2つの世界

或る列車は2両編成ですが、車両ごとにまったく異なるデザイン哲学が貫かれています。

1号車はメープル(楓)の木材を使った温かみのある空間。フランス・ヴェルサイユ宮殿にインスピレーションを得たクラシカルな内装で、唐草模様のカーペットと気品あるシートが並びます。仕切りがないオープンスタイルで見晴らしがよく、テーブル席から車窓の景色を存分に楽しめます。

2号車はウォールナット(胡桃)材のシックな色調。こちらは日本の神社仏閣からインスピレーションを得た和の空間です。組子細工から差し込む光が芸術的な陰影をつくり、木の香りが漂う個室で過ごす時間は、まるで茶室に招かれたような静けさがあります。随所にハートモチーフが隠されており、それを探すのも楽しみのひとつです。

コース料理の皿が並ぶテーブルの向こうに、メープルの温もりが広がるか、ウォールナットの落ち着きが広がるか。どちらの車両を選ぶかで、同じ料理でも味わいの印象が変わるから不思議です。

水戸岡鋭治デザインの真骨頂|6億円の芸術作品に乗る体験

デザイナー・水戸岡鋭治氏は、JR九州の「ななつ星in九州」「ソニック」「ゆふいんの森」など数々の列車を手がけてきた巨匠です。或る列車では「鉄道車両ではタブーとされている色・形・素材を使った」と自ら語るほど、従来の車両デザインの常識を超えた挑戦をしています。

天井のコッファー(格間装飾)、寄木細工のテーブル、組子細工の仕切り――すべて職人の手仕事で仕上げられた車内は、もはや「移動手段」ではなく「走る美術館」です。窓から入る自然光が木の表面に陰影をつくり、時間帯によって車内の表情が変わるのも、計算された設計の賜物です。

外観も見逃せません。黒と金のツートンカラーで彩られた車体は、ホームに入ってきた瞬間から特別な存在感を放ちます。出発前にホームで写真を撮る時間も旅の楽しみのひとつ。博多駅では発車の15分ほど前からホームに入線するので、外観をじっくり眺める余裕があります。

⭐ ここがポイント

2両で約6億円という改造費は、7両編成の「ななつ星in九州」(約30億円)と1両あたりの単価でほぼ同じ。つまり或る列車は、ななつ星と同じ密度の工芸品が詰まった車両に、3万8,000円から乗れるということ。この事実は意外と知られていません。

或る列車の料理を味わうための予約ガイド|抑えておくべきポイント

或る列車の料理の正体

予約は公式サイトのみ|駅の窓口では買えない

或る列車は通常の列車きっぷとは違い「旅行商品」として販売されています。JR九州のみどりの窓口や券売機では購入できず、或る列車の専用予約サイトからのみ申し込めます。

予約の受付は出発日の5日前まで。ただし人気のある日程(週末、紅葉シーズンの10〜11月、ゴールデンウィーク)は早々に埋まることも珍しくありません。特に2号車の1名個室は1日1席しかないため、ソロ旅を計画するなら1ヶ月以上前の予約をおすすめします。

添乗員は同行しません。乗車中の案内や食事のサービスは車内のクルーが担当します。団体ツアーではなく個人旅行のスタイルなので、自分のペースで料理と車窓を楽しめます。

運行日と運行区間|いつ・どこで乗れるのか

或る列車は毎日運行ではなく、主に金曜・土曜・日曜・祝日を中心に運行されています。運行カレンダーは公式サイトで随時更新されるため、旅行の計画段階で確認しましょう。

運行区間は博多駅〜由布院駅間(鹿児島本線・久大本線経由)。午前便が博多発10:58頃→由布院着14:08頃、午後便が由布院発15:00頃→博多着18:03頃です。博多駅は新幹線が停車するため、東京や大阪からのアクセスも良好。東京から博多までは新幹線のぞみで約5時間、飛行機なら約2時間です。前日に博多入りし、翌朝から或る列車に乗る…という旅程が組みやすいルートです。

なお、過去には長崎や佐世保方面のルートで運行されていた時期もあり、将来的にルート変更や追加がある可能性もあります。最新の運行情報は公式サイトで確認するのが確実です。

⚠️ よくある失敗パターン

「JR九州のネット予約から買えると思って探したが見つからない」というケース。或る列車は通常のきっぷ予約サイト(JR九州ネットきっぷ)とは別の専用ページでしか購入できません。「或る列車 予約」で検索し、JR九州の或る列車公式サイト(jrkyushu-aruressha.jp)にアクセスしてください。

キャンセル料と人数変更|知っておくべきルール

旅行商品のため、通常の列車きっぷとはキャンセルポリシーが異なります。出発日が近づくほどキャンセル料が高くなる仕組みで、直前キャンセルはほぼ全額負担になる場合があります。詳しい規定は予約時の旅行条件書に記載されているため、申し込み前に必ず確認しましょう。

人数が変更になった場合は、早めに予約サイトまたは電話で連絡を。先述の通り、2名から1名に減った場合は料金が上がる(3万8,000円→5万円)ため、1名個室への振替を相談するのが賢明です。逆に、人数が増える場合も席の種類や空き状況によっては対応可能なケースがあるので、まずは問い合わせてみましょう。

天候や災害による運休の場合は全額返金されます。久大本線は山間部を走る路線のため、大雨や台風の影響を受けやすいルートです。特に梅雨時期(6〜7月)や台風シーズン(8〜9月)は、出発前日に運行状況を確認しておくと安心です。2017年の九州北部豪雨では久大本線が長期運休し、或る列車も一時ルートを変更した経緯があります。

或る列車の料理×車窓|コースに合わせて楽しむ沿線の風景

博多〜久留米|前菜とともに筑後平野を走る

博多駅を出発すると、列車はまず鹿児島本線を南下し、鳥栖駅で久大本線に入ります。筑後平野の広々とした田園風景が窓の外に広がるこの区間で、冷たい前菜が運ばれてきます。

春の桜鯛のハーブゼリーを口に含むと、ゼリーのひんやりとした食感の奥から桜鯛の上品な甘みが広がり、サフランの香りがふわりと追いかけてきます。窓の外では菜の花の黄色が一面に広がり、料理の繊細さと風景の大らかさが対比をなす、旅の始まりにふさわしい時間です。

このあたりは筑後川の流域で、川沿いに点在する集落や田畑がのどかな風景をつくっています。列車はゆっくりと走るため、スマートフォンのカメラでも十分にきれいな写真が撮れます。

日田〜天ヶ瀬|メインの肉料理と渓谷の深い緑

久大本線の中盤、日田(ひた)を過ぎたあたりから車窓の表情が一変します。筑後平野の開放感から一転、玖珠(くす)川沿いの渓谷区間に入り、深い緑の山肌が窓いっぱいに迫ってきます。

この区間で提供されるのが、鹿児島県産黒毛和牛のクリームトマト煮込み。フォークで触れるだけでほどけるほど柔らかく煮込まれた牛肉に、春野菜の彩りとチーズのソースが重なります。渓谷の荒々しい自然と、皿の上の繊細な技巧のコントラストが、この瞬間を忘れがたいものにしてくれます。

天ヶ瀬温泉を通過する頃は、ちょうどコースの中盤。線路の真下を流れる渓流が見えるポイントもあり、思わず箸(フォーク)を止めて窓に見入ってしまう場面です。日田は「水郷」として知られる町で、清流が育んだ食材が成澤シェフの料理の下支えにもなっています。

由布院到着前|スイーツとともに由布岳が姿を現す

天ヶ瀬を過ぎると列車は再び高原に出て、視界が開けてきます。遠くに由布岳の双耳峰(ふたつの頂)が見え始めたら、いよいよ旅のフィナーレ。メインスイーツのあまおういちごのクレープが運ばれてきます。

温かいクレープの上にスミレの香りのヨーグルトダンジュとミルクアイスが添えられ、いちごの赤、ヨーグルトの白、クレープの黄金色が春の彩りを描きます。窓の外に由布岳が近づくにつれ、コース料理も旅もクライマックスを迎える――この演出は偶然ではなく、計算されたタイミングです。

最後のミニスイーツ(抹茶ガトー、桜餅、柑橘の生チョコレート)は、由布院駅到着の直前に。列車が速度を落とし、プラットフォームがゆっくり見えてくる中で、八女抹茶の余韻とともに3時間の旅が静かに幕を閉じます。

写真撮影のベストタイミング|料理と車窓を同時に収める方法

SNSに投稿する方も多い或る列車。料理と車窓を一枚の写真に収めるなら、午前便の場合は鳥栖〜久留米間がベストポイントです。日差しが車内に入りやすく、料理に自然光が当たるため、見栄えの良い写真が撮りやすいタイミングです。

午後便なら天ヶ瀬〜豊後中村間の渓谷区間がおすすめ。深い緑を背景にスイーツを撮ると、料理の色味が映えます。ただし渓谷区間はトンネルも多いため、明暗の変化に注意が必要です。

なお、車内は撮影自由ですが、他の乗客への配慮は忘れずに。シャッター音を消す、フラッシュを使わないなど、基本的なマナーを守れば、クルーから注意されることはありません。

💡 知って得する豆知識
或る列車の料理提供のタイミングは、車窓の見どころに合わせて細かく設計されています。渓谷区間でメインディッシュ、高原区間でスイーツという流れは、景色と料理がお互いを引き立てるよう計算されたもの。「食事の邪魔にならない景色、景色の邪魔にならない食事」がコンセプトだそうです。

他の九州グルメ列車と或る列車の料理を比較|何が違うのか

或る列車の料理の正体

ななつ星in九州との違い|料金は10分の1、体験の密度は互角

JR九州にはもう1つの豪華列車「ななつ星in九州」があります。こちらは1泊2日で約50万円〜、3泊4日で約90万円〜と、或る列車の10倍以上の料金です。

ただし、料理の監修は同じく世界的に評価されたシェフが担当しており、車両のデザイナーも同じ水戸岡鋭治氏。つまり「料理×デザイン」の軸では、或る列車とななつ星は同じ思想を共有しています。違いは「泊まるか、日帰りか」。ななつ星は列車の中で眠り、朝を迎える体験ですが、或る列車は3時間にすべてを凝縮します。

「ななつ星に乗る前の予行演習として或る列車に乗る」という方も多いそうです。或る列車でJR九州の豪華列車のクオリティを体感し、「もっと長く浸りたい」と思ったらななつ星へ――という段階的な楽しみ方は理にかなっています。

36ぷらす3・ふたつ星4047との比較|九州グルメ列車の選び方

JR九州にはほかにも「36ぷらす3(さんじゅうろくぷらすさん)」や「ふたつ星4047」といった観光列車があります。36ぷらす3は九州一周を5つのルートで楽しむ列車で、グリーン席個室が1万〜2万円台。ふたつ星4047は長崎方面を走り、スイーツや軽食が楽しめる列車で1万円前後です。

列車名 料金(1名) 食事 区間
或る列車 38,000〜50,000円 フルコース+フリードリンク 博多〜由布院
ななつ星in九州 500,000円〜 フルコース+全食事 九州一周
36ぷらす3 10,000〜25,000円 コース料理(曜日限定) 九州5ルート
ふたつ星4047 5,000〜10,000円 スイーツ・軽食 武雄温泉〜長崎

或る列車は「フルコース料理を車内で」という体験に特化した列車で、36ぷらす3やふたつ星4047とは位置づけが異なります。「列車の中でちゃんとしたコース料理を食べたい」なら或る列車一択。「まずはカジュアルに観光列車を体験したい」なら36ぷらす3やふたつ星4047から始めるのが良いでしょう。

或る列車の料理でしか味わえない3つの価値

👨‍🍳

世界トップシェフの独自メニュー

NARISAWA成澤シェフの
或る列車だけのコース

🚃

6億円の芸術空間

明治の幻の客車を蘇らせた
水戸岡デザインの2両

🏔️

車窓と料理のシンクロ

景色に合わせて設計された
コース料理の提供タイミング

この3つが同時に揃う列車は、国内では或る列車だけです。関東の「TRAIN SUITE 四季島」や関西の「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」も豪華列車として知られますが、これらは1泊2日以上の長距離列車であり、料金も30万円超。日帰りで世界トップレベルのコース料理を楽しめるという意味では、或る列車に並ぶ選択肢は存在しません。

まとめ|或る列車の料理は3万8,000円で味わえる九州の最高峰

或る列車の料理は、世界のベストレストラン50に選ばれ続ける成澤由浩シェフが、九州の旬の食材だけで構成したオリジナルコースです。桜鯛のハーブゼリーから始まり、黒毛和牛の煮込み、あまおういちごのクレープへと続く5品のフルコースは、季節ごとに完全に入れ替わり、何度乗っても新しい味に出会えます。

料金は2名利用で1人3万8,000円から。この中にコース料理、フリードリンク、博多〜由布院間の乗車がすべて含まれています。明治時代の幻の客車を6億円かけて蘇らせた水戸岡鋭治デザインの車内で、九州の渓谷や田園風景を眺めながらフルコースを味わう3時間は、レストランでもホテルでも再現できない唯一無二の体験です。

📝 この記事のポイントまとめ

  • コース料理は成澤由浩シェフ(NARISAWA)監修、九州食材のみで構成
  • 2026年春は桜鯛・黒毛和牛・あまおうなど九州7県の食材を使った全5品
  • 料金は2名利用で1人38,000円〜。フリードリンク込み
  • 1名個室(44,000円)は1日1席限定、ソロ旅なら早めの予約必須
  • 午前便は由布院宿泊向き、午後便は九酔渓の車窓が見どころ
  • 予約は専用サイト(jrkyushu-aruressha.jp)のみ。駅の窓口では購入不可
  • 10歳未満は乗車不可。こども料金は32,000円

まずは或る列車の公式サイトで、運行カレンダーを確認してみてください。スケジュールの合う日が見つかったら、そこが「九州の食と列車の旅」の入口です。3時間後、由布院のホームに降り立ったとき、きっと「もう一度乗りたい」と思うはずです。

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この記事を書いた人

旅と食の疑問を解決する「たびちえ」です。新幹線や旅館のマナー、ご当地グルメの歴史、スーツケースのトラブル など、旅行者が抱える「なぜ?」を「完全ガイド」で徹底解説。読者の不安に寄り添い、「焦らないでください」のメッセージとともに、あなたの旅を快適にサポートします。

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